「うちは家族の仲が良いから、相続で揉めるなんてありえない」
そう思っていませんか?しかし、これまで円満だった家族関係が、親の相続をきっかけに一変してしまうケースは後を絶ちません。大切な家族が骨肉の争いを繰り広げる「争族」は、決して他人事ではないのです。
今回は、実際にあった相続トラブルの事例をいくつかご紹介します。どのような点が争いの火種になったのかを知り、ご自身の家族の状況と照らし合わせてみてください。
ケース1:不公平な遺言書が引き起こした兄弟の亀裂 😱
「全財産を長男に相続させる」
亡くなった父親の遺言書には、そう記されていました。長年にわたり家業を継ぎ、両親と同居してきた長男を想ってのことだったのかもしれません。しかし、家を出てそれぞれ家庭を持つ次男と長女にとって、この内容は到底受け入れられるものではありませんでした。
「兄さんだけずるいじゃないか!」
「私たちにだって、親の財産をもらう権利があるはずだ!」
【争いのポイント:遺留分】
このケースの争点は**「遺留分(いりゅうぶん)」**です。遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に法律上保障されている、最低限の遺産の取り分のことです。たとえ遺言書に「全財産を長男に」と書かれていても、他の相続人(この場合は次男と長女)は、自身の遺留分を主張する権利があります。
- **遺留分が認められる人:**配偶者、子(または孫)、親(または祖父母)
- **遺留分の割合:**本来の法定相続分の半分(親のみが相続人の場合は3分の1)
結局、次男と長女は家庭裁判所に**「遺留分侵害額請求」**の調停を申し立て、長男は自身の相続財産の中から、彼らの遺留分に相当する金銭を支払うことになりました。遺言書一つで、兄弟の間には深い溝ができてしまったのです。
【教訓】
遺言書を作成する際は、特定の相続人に偏った内容にするのではなく、他の相続人の遺留分にも配慮することが、無用な争いを避けるための重要なポイントです。
ケース2:「介護の貢献」を誰も分かってくれない… 孤独な長女の叫び 😢
母親が亡くなり、遺産分割協議が始まりました。相続人は、長男、次男、そして実家で母親を10年以上一人で介護してきた長女の3人です。
遺産は預貯金と実家の不動産。長男がこう切り出しました。
「法律通り、3人で均等に分けよう。それが一番公平だよな」
次男もそれに同意しましたが、長女は納得できませんでした。
「待ってよ!私はこの10年間、自分の時間を犠牲にしてお母さんの介護をしてきたのよ。仕事も辞めて、友達と遊びに行くこともできず…その苦労を少しは考えてくれてもいいんじゃないの?」
【争いのポイント:寄与分】
このケースの争点は**「寄与分(きよぶん)」**です。寄与分とは、被相続人(亡くなった方)の財産の維持または増加に特別な貢献をした相続人が、法定相続分に上乗せして遺産を受け取れる制度です。
- 寄与分が認められやすい行為の例:
- 被相続人の事業を無給で手伝った
- 被相続人に代わって多額の借金を返済した
- 療養看護(介護)に専念し、本来かかるはずだった費用を浮かせた
ただし、単に「親の面倒を見ていた」というだけでは、法的に「特別な貢献」と認められないケースも多く、その証明は非常に難しいのが実情です。この事例でも、長男と次男は「親子なのだから当たり前のことだ」と長女の主張を認めず、話し合いは平行線に。最終的に家庭裁判所の調停にまで発展し、長女の介護の貢献は一定額の寄与分として認められましたが、金銭では埋められないわだかまりが残りました。
【教訓】
特定の相続人に介護などの負担が偏る場合は、その貢献に報いるための遺言書を作成してもらう、あるいは生前のうちに家族会議を開き、貢献に対する金銭の支払いや他の相続人の理解を得ておくことが重要です。
ケース3:知らなかった「生前贈与」が発覚し、協議は泥沼化 🤔
相続人は長女と次女の2人。遺産は預貯金3,000万円でした。法定相続分に従い、1,500万円ずつで円満に解決するはずでした。しかし、遺品の整理中に、次女が父親から5年前に「結婚祝い」として1,000万円の贈与を受けていたことが発覚します。
「妹だけ1,000万円ももらっていたなんて不公平だわ!その分も遺産に含めて計算し直すべきよ!」
長女の主張に対し、次女は「あれは父が私にくれたお祝い金で、相続とは関係ない」と反論しました。
【争いのポイント:特別受益】
このケースの争点は**「特別受益(とくべつじゅえき)」**です。特別受益とは、一部の相続人が被相続人から生前に受けた贈与(住宅資金、事業資金、高額な学費など)のことです。
法律では、この特別受益を**「遺産の前渡し」とみなし、相続財産に加算して(これを「持ち戻し」**といいます)各相続人の具体的な取り分を計算し直すことになっています。
- 計算例:
- 本来の遺産(3,000万円)+ 特別受益(1,000万円)= みなし相続財産(4,000万円)
- みなし相続財産(4,000万円)÷ 2人 = 1人あたりの相続分(2,000万円)
- 長女の取り分:2,000万円
- 次女の取り分:2,000万円 - 1,000万円(既に受け取った分)= 1,000万円
この計算により、長女は2,000万円、次女は1,000万円を相続することになり、公平が保たれるのです。しかし、感情的な対立から協議はまとまらず、これもまた調停に持ち込まれることになりました。
【教訓】
生前贈与は、他の相続人との不公平感を生みやすい原因になります。誰に、いつ、いくら贈与したのかを明確にし、家族全員にオープンにしておくか、贈与分を考慮した遺言書を残しておくことが、争いを未然に防ぎます。
まとめ:争いを避けるためにできること 💡
ご紹介した事例は、どれも特別な家庭に起きたことではありません。
- 不公平な遺言書
- 介護など貢献度の差
- 生前の不透明な贈与
- 分けにくい不動産
こうした火種は、どんな家族にも潜んでいます。大切な家族が「争族」でバラバラにならないために、今からできることがあります。
- 元気なうちに「遺言書」を作成する:自分の意思を明確に残すことが、一番の争族対策です。遺留分にも配慮した公正証書遺言がおすすめです。
- 家族で「お金の話」をしておく:生前贈与や介護のことなど、デリケートな問題こそ、親子・兄弟が元気なうちに話し合い、お互いの認識を共有しておくことが大切です。
- 専門家に相談する:相続は法律や税金が複雑に絡み合います。少しでも不安があれば、弁護士や司法書士、税理士などの専門家に早めに相談しましょう。
相続は、残された家族への最後のメッセージです。あなたの家族が、これからも円満な関係を続けていけるよう、この記事が「我が家の場合は?」と考えるきっかけになれば幸いです。
【免責事項】
この記事は相続に関する一般的な情報提供を目的としており、法的なアドバイスを提供するものではありません。個別の事案については、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
