【相続の罠】「兄は実家、私は現金で」その“公平な”遺産分割、実は1000万円損してるかもしれません

実話:相続が争続に

※はじめにお読みください※

この記事は、遺産分割に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事案に対する法的なアドバイスを行うものではありません。具体的な分割協議や税務判断にあたっては、必ず税理士、司法書士、不動産鑑定士などの専門家にご相談ください。


「実家の近くに住んでいるお兄ちゃんが、家と土地を相続すればいい。私は離れて暮らしているし、その分、現金をもらえればそれで満足だよ」

ご両親が亡くなった後、兄弟姉妹で遺産について話し合うとき、こんな風に円満に話がまとまったら、どんなに素晴らしいことでしょう。お互いを思いやり、揉めることなくスムーズに相続を終える。これこそが、亡くなったご両親が最も望む形のはずです。

しかし、もし、その**「思いやり」と「善意」だけで進めた遺産分割が、数年後、深刻な不公平感と家族の亀裂に繋がる**としたら…?

実は、相続の現場では、このような「良かれと思って行った」分割が、結果的に1,000万円以上もの格差を生んでしまうケースが後を絶ちません。その原因は、ほとんどの人が知らない、不動産が持つ**「2つの顔(価格)」**にあります。

この記事では、あなたの家族が“そんなはずじゃなかった”と後悔しないために、不動産と現金を相続する際の、知られざる落とし穴について徹底的に解説します。

目次

  1. ある兄弟の円満な遺産分割…しかし、そこに潜む「1000万円の格差」
  2. 【全ての元凶】不動産の“2つの価格”、「相続税評価額」と「市場価格」
    • ① 相続税評価額:税金計算のための「割引価格」
    • ② 市場価格:財産の本当の価値を示す「実勢価格」
  3. 格差はさらに広がる!不動産だけが持つ3つの「隠れボーナス」
    • ボーナス①:税金がさらに安くなる「小規模宅地等の特例」
    • ボーナス②:インフレに強く、将来値上がりする可能性
    • ボーナス③:家賃収入を生み出す「金の卵」になる可能性
  4. 本当の意味で「公平な分割」を実現するための3つのステップ
    • ステップ①:まずは不動産の「市場価格」を把握する
    • ステップ②:「市場価格」を基準に分割方法を検討する
    • ステップ③:専門家の知恵を借りる
  5. まとめ:知識は、家族の絆を守るための“お守り”

1. ある兄弟の円満な遺産分割…しかし、そこに潜む「1000万円の格差」

ここに、一郎さん(兄)と二郎さん(弟)という兄弟がいます。父親が亡くなり、遺産は「実家の土地建物」と「現金3,000万円」でした。

二人は、税務署に提出する相続税申告で使われる「相続税評価額」を基準に話し合いました。

  • 実家の土地建物の相続税評価額:3,200万円
  • 現金:3,000万円

実家で父親の面倒を見てきた一郎さんが家を継ぎ、二郎さんが現金を受け取ることで、二人は納得しました。

「お兄ちゃんが200万円多くもらう形だけど、今までありがとう」

「いや、お前も色々大変だっただろう」

二人は、これで公平で円満な相続ができたと、肩を叩き合いました。

しかし、ここに大きな罠が潜んでいたのです。数年後、一郎さんがその実家を売却したところ、なんと4,000万円で売れました。

その時、二郎さんは初めて気づきます。

「兄さんがもらった財産の本当の価値は4,000万円で、自分がもらったのは3,000万円。差額は200万円どころか、1,000万円もあったのか…」

2. 【全ての元凶】不動産の“2つの価格”、「相続税評価額」と「市場価格」

なぜ、このような悲劇が起きてしまうのでしょうか。それは、不動産には目的の違う2つの価格が存在するからです。

① 相続税評価額:税金計算のための「割引価格」

これは、相続税や固定資産税を計算するためだけに国が定めた、いわば**「税金計算用の価格」です。国民の税負担が過度に重くならないよう、実際の市場価格よりも低く設定されており、記事にもあるように市場価格の80%程度**が目安とされています。

一郎さんと二郎さんが基準にしたのは、この「割引価格」だったのです。

② 市場価格:財産の本当の価値を示す「実勢価格」

これは、実際に不動産市場で売買される**「リアルな価格」**です。不動産会社が「この家は4,000万円で売れますよ」と査定する価格がこれにあたります。財産の真の価値は、この市場価格で測らなければなりません。

遺産分割は、税金を計算する行為ではなく、財産の価値そのものを分け合う行為です。それなのに、税金計算用の「割引価格」を基準にしてしまうと、一郎さんと二郎さんのように、意図せず大きな不公平が生まれてしまうのです。

3. 格差はさらに広がる!不動産だけが持つ3つの「隠れボーナス」

問題は、相続時点の価値だけではありません。不動産には、現金にはない「隠れボーナス」があり、時間と共にその格差はさらに広がっていく可能性があります。

ボーナス①:税金がさらに安くなる「小規模宅地等の特例」

亡くなった親と同居していた子どもなどが自宅を相続する場合、「小規模宅地等の特例」という制度を使えば、土地の相続税評価額を最大80%も減額できます。一郎さんはこの特例を使える可能性が高く、支払う相続税は二郎さんよりずっと少なくて済むかもしれません。現金には、このような税金の特例はありません。

ボーナス②:インフレに強く、将来値上がりする可能性

二郎さんがもらった現金3,000万円の価値は、インフレが進めば目減りしていきます。日銀が目標とする年2%のインフレが続けば、10年後には実質的な価値が約2,460万円にまで下がってしまいます。

一方、一郎さんが相続した不動産は、インフレに強く、再開発などで将来的に価値が上がる可能性も秘めています。

ボーナス③:家賃収入を生み出す「金の卵」になる可能性

もし一郎さんが実家を賃貸に出せば、そこから毎月家賃収入が生まれます。不動産は、それ自体が新たなキャッシュフローを生み出す「資産」になり得ますが、現金は使えばなくなるだけです。

4. 本当の意味で「公平な分割」を実現するための3つのステップ

では、どうすればこのような「隠れた不公平」を防ぎ、誰もが納得できる遺産分割ができるのでしょうか。

ステップ①:まずは不動産の「市場価格」を把握する

遺産分割協議を始める前に、必ず複数の不動産会社に査定を依頼し、その不動産の「市場価格(実勢価格)」を把握しましょう。多くの不動産会社は無料で査定してくれます。これが、公平な話し合いのスタートラインです。

ステップ②:「市場価格」を基準に分割方法を検討する

市場価格が4,000万円だと分かった上で、改めて分割方法を話し合います。

  • 方法A(代償分割):兄が4,000万円の不動産を相続する代わりに、弟に差額を埋めるための代償金(例えば500万円)を支払う。
  • 方法B(換価分割):不動産を売却して4,000万円の現金に変え、現金遺産の3,000万円と合わせて合計7,000万円を、兄弟で3,500万円ずつ分ける。

どちらが良いかはご家庭の状況によりますが、基準が「市場価格」であれば、どちらを選んでも価値の面で公平性は保たれます。

ステップ③:専門家の知恵を借りる

相続は、税金、法律、不動産など、様々な専門知識が絡み合います。

  • 税理士:相続税の計算や、どの分割方法が税制上有利かをアドバイスしてくれます。
  • 司法書士:不動産の名義変更(相続登記)の専門家です。
  • 不動産鑑定士:より正確な不動産の価値を評価してくれます。

早めに専門家に相談することで、見落としがちなリスクを防ぎ、客観的な視点から円満な解決策を探ることができます。

5. まとめ:知識は、家族の絆を守るための“お守り”

相続において、「知らなかった」という一言が、時に取り返しのつかない家族の溝を生んでしまうことがあります。「兄弟仲良く、円満に」という美しい想いも、正しい知識という土台がなければ、いとも簡単に崩れ去ってしまうのです。

遺産分割とは、亡くなった親が遺してくれた、家族への最後のメッセージを読み解く作業です。そのメッセージを正しく受け取り、未来へ繋いでいくために。

まずは、あなたの、あるいはご実家の不動産の「本当の価値」を知ることから始めてみませんか。その小さな一歩が、あなたと大切な兄弟姉妹の未来の笑顔を守る、何よりもの“お守り”になるはずです。


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