THE GOLD ONLINE編集部の記事をまとめました!
※はじめにお読みください※
この記事は、相続や介護に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事案に対する法的なアドバイスを行うものではありません。具体的な対策にあっては、必ず弁護士、司法書士、ファイナンシャル・プランナーなどの専門家にご相談ください。
「親は真面目に働き、贅沢もせずに暮らしてきた。退職金も合わせれば、老後資金として2,000万円くらいはあるはずだ」
もし、あなたがそう信じているなら、少しだけ立ち止まって考えてみてください。その“はず”は、本当に現実でしょうか?
先日、あるオンラインメディアで紹介された50歳男性・松本さん(仮名)の事例が、多くの家庭に警鐘を鳴らしています。彼は、86歳で亡くなった父親の遺産分割協議の場で、衝撃の事実を突きつけられました。2,000万円はあると信じていた父の預金通帳。その残高は、わずか87万円だったのです。
「浪費家ではなかった父のお金は、一体どこへ消えたのか?」
これは、決して松本さん一家だけの特別な物語ではありません。親の死後、相続の場で初めて知る、過酷な現実。この記事では、なぜこのような「遺産ゼロショック」が起こるのか、その背景にある高齢期の隠れたコストと、家族がバラバラになる前に行うべき対策について、深く掘り下げていきます。
目次
- 「2,000万円あったはず」の幻想:なぜ子どもの期待は裏切られるのか
- 老後資金を静かに溶かす「3大コスト」の正体
- コスト①:終わりの見えない「介護費用」
- コスト②:想定以上にかさむ「医療費」
- コスト③:忘れられがちな「先の親の葬儀費用」
- 兄弟間の亀裂:「何もしてないくせに」と言われる前に
- 介護の貢献を主張する「寄与分」とは?
- なぜ「寄与分」の主張は難しいのか
- 「争族」を回避するために、親が元気なうちに話すべき4つのこと
- ① 親の「今の暮らし」と「健康状態」を知る
- ② お金の「見える化」を親子で始める
- ③ 介護や終末期の「希望」を聞く
- ④ 兄弟姉妹で「役割分担」を話し合う
- まとめ:本当の相続とは何か
1. 「2,000万円あったはず」の幻想:なぜ子どもの期待は裏切られるのか
松本さんのように、親と離れて暮らす子ども世代は、親の生活を「昔のイメージ」で捉えがちです。
「現役時代と同じように、年金で十分に暮らしているだろう」
「質素な生活をしているから、お金は貯まる一方のはずだ」
しかし、高齢期、特に75歳を過ぎたあたりから、生活の収支バランスは大きく変わります。松本さんのケースでは、同居していた妹さんが記録していた介護や医療の記録が、その厳しい現実を物語っていました。年金収入だけでは足りない分を、毎月少しずつ貯金から補填し、大きな出費が重なった結果、あれほどあったはずの貯金はほとんど残っていなかったのです。
2. 老後資金を静かに溶かす「3大コスト」の正体
では、具体的にお金はどこへ消えていくのでしょうか。その主な原因は、多くの人が想像する以上にかかる「3大コスト」にあります。
コスト①:終わりの見えない「介護費用」
親が要介護認定を受けると、介護保険サービスを利用できますが、自己負担(1割〜3割)は発生します。デイサービスの利用、ヘルパーの訪問、福祉用具のレンタルなど、様々な費用が継続的にかかります。
記事の事例のように、「毎月5万円ずつでも、5年で300万円」。これは決して大げさな数字ではありません。介護施設に入所すれば、月々の費用はさらに高額になります。
コスト②:想定以上にかさむ「医療費」
高齢になると、入退院を繰り返したり、複数の持病を抱えたりすることが増えます。高額療養費制度があるため、1ヶ月の自己負担額には上限がありますが、それでも食費や差額ベッド代などは別途かかります。記事の事例でも、父は大きな手術を2回経験していました。こうした突発的な出費が、貯金を大きく減らす要因となります。
コスト③:忘れられがちな「先の親の葬儀費用」
松本さんのケースでは、7年前に亡くなった母親の入院費や葬儀費用も、父親の預金から支払われていました。夫婦の一方が亡くなった際の費用は、残された配偶者の老後資金に大きな影響を与えていることを、子どもたちは見落としがちです。
3. 兄弟間の亀裂:「何もしてないくせに」と言われる前に
「遺産ゼロショック」が引き起こすのは、経済的な失望だけではありません。より深刻なのは、家族関係の亀裂です。
松本さんの妹さんは、こう言いました。
「介護も看取りも全部私がやったの。そっちは何もしてないじゃない」
この言葉は、介護を一身に背負った家族の、長年にわたる肉体的・精神的な疲労と孤独感の表れです。一方で、何も知らなかった松本さんからすれば、「財産がないばかりか、責められている」と感じてしまうかもしれません。
介護の貢献を主張する「寄与分」とは?
相続においては、親の介護などで財産の維持・増加に特別な貢献をした相続人が、他の相続人より多くの財産を相続できる**「寄与分」**という制度があります。妹さんの主張は、まさにこの寄与分にあたるものです。
なぜ「寄与分」の主張は難しいのか
しかし、この寄与分が法的に認められるハードルは非常に高いのが現実です。単なる身の回りの世話では「親子間の扶養義務の範囲内」とされ、「特別な貢献」とは見なされにくいのです。認められるためには、職業介護士を雇った場合に比べてどれだけ財産の減少を防いだか、などを客観的な証拠で示す必要があり、精神的な負担は金額に換算されません。
だからこそ、法律論で白黒つける前に、家族としての**「話し合い」と「感謝の表明」**が何よりも重要になるのです。
4. 「争族」を回避するために、親が元気なうちに話すべき4つのこと
松本さんは、「もし通帳も見ずに『財産の半分をよこせ』なんて言っていたら、家族が壊れていた」と語っています。この最悪の事態を避けるためには、問題が起きてからではなく、起きる前に家族で向き合うしかありません。
相続の話を「遺産の話」として切り出すと、どうしても生々しくなります。そうではなく、**「親のこれからの人生を支えるための、家族の作戦会議」**として、元気なうちに話し合うことが大切です。
① 親の「今の暮らし」と「健康状態」を知る
まずは、親がどんな生活を送り、何に困り、どんな健康上の不安を抱えているか、関心を持って話を聞くことから始めましょう。
② お金の「見える化」を親子で始める
「縁起でもない」と敬遠せず、「もしもの時、お父さんのお金がどこにあるか分からないと困るから、一緒に整理させてくれない?」と、あくまで**“親を助ける”というスタンス**で話を持ちかけましょう。年金収入と支出のバランス、預貯金や保険の状況などを親子で共有することが、全ての基本です。
③ 介護や終末期の「希望」を聞く
「もし介護が必要になったら、家で過ごしたい?施設がいい?」「延命治療は望む?」といった、親自身の希望を直接聞いておくことは、将来子どもたちが重大な決断を下す際の、大きな助けになります。そして、その希望を実現するためには、どれくらいの費用がかかるのかを一緒に考えるのです。
④ 兄弟姉妹で「役割分担」を話し合う
親のサポートについて、兄弟姉妹間で役割分担を明確にしておきましょう。「実家の近くに住む妹が日常のサポートをし、遠方の兄は毎月金銭的な援助をする」など、それぞれの状況に応じて協力体制を築くことが、介護負担の偏りや、後の不公平感をなくすことに繋がります。
5. まとめ:本当の相続とは何か
松本さん一家の相続は、金銭的にはほとんど何も残りませんでした。しかし、彼は「家族の関係や自分自身のこれからと、改めて向き合う機会になった」と語っています。
時に、相続とは、お金や不動産を受け継ぐこと以上に、親の生きてきた証と向き合い、家族としての関係性を見つめ直すための、最後の機会なのかもしれません。
「親は大丈夫なはず」という思い込みを捨て、元気なうちに、勇気を出して話を切り出すこと。通帳の数字を眺めながら親子で将来の計画を立てることは、決して気まずい時間ではなく、むしろ親の人生に寄り添う、かけがえのない時間になるはずです。

