※はじめにお読みください※
この記事は、相続財産の調査に関する一般的な情報提供を目的としています。個別の事案に対する法的なアドバイスを行うものではありません。具体的な調査や法的手続きにあたっては、必ず弁護士、司法書士、税理士などの専門家にご相談ください。
「親が亡くなったけれど、どんな財産を遺してくれたのか、全く見当がつかない…」
「通帳は見つかったけど、他にも口座があるかもしれない。借金は本当にないのだろうか?」
「兄が全部管理していたから、自分には何も教えてくれない。財産を隠されているんじゃないか…」
親子といえども、生前にお金の話を詳しくするご家庭は多くありません。そのため、いざ相続が始まってから、故人の財産の全体像が分からずに途方に暮れてしまうケースは非常に多いのです。
遺産の全体像が不明なままでは、遺産分割の話し合いを進めようがありません。それどころか、他の相続人への不信感が募り、「財産隠し」を疑って家族関係に亀裂が入ってしまうことも。さらに、後から多額の借金が見つかれば、知らずに相続してしまい返済義務を負うという最悪の事態も起こり得ます。
しかし、ご安心ください。相続財産の調査は、一つ一つ手がかりを辿っていけば、ご自身でもある程度まで進めることが可能です。
この記事では、まずご自身でできる遺産の探し方を「調査対象別」に具体的に解説し、それでも不明な点がある場合や、他の相続人が協力的でない場合の対処法まで、網羅的にご紹介します。
目次
- なぜ財産調査は重要?全ての相続手続きのスタートライン
- 調査の前に…まず「相続人であること」を証明する書類を準備する
- 【自宅でできる】財産調査の第一歩は「故人の遺品整理」から
- 探すべき最重要アイテムリスト
- 【金融資産の探し方】預貯金・株式・保険を調査する方法
- ① 預貯金の調査方法
- ② 株式・投資信託の調査方法
- ③ 生命保険の調査方法
- 【不動産の探し方】漏れなく見つけるための調査方法
- 「名寄せ帳」の取得が最も確実
- 【最も重要】借金など「マイナスの財産」の探し方
- 信用情報機関への情報開示請求
- 他の相続人が協力してくれない…「財産隠し」が疑われる場合の対処法
- ① 弁護士に依頼して調査を進める
- ② 「弁護士会照会制度」を利用する
- ③ 家庭裁判所の「遺産分割調停」を申し立てる
- まとめ:焦らず、一つずつ丁寧に。不明な点は専門家へ
1. なぜ財産調査は重要?全ての相続手続きのスタートライン
財産調査は、単に「何がもらえるか」を知るためだけに行うのではありません。
- 遺産分割協議の前提:分けるべき財産が確定しないと、話し合いが始められません。
- 相続放棄の判断材料:プラスの財産より借金などのマイナスの財産が多い場合、「相続放棄」を検討する必要があります。この判断期限は原則3ヶ月以内と非常に短いため、迅速な調査が不可欠です。
- 相続税申告の要否判断:遺産の総額が基礎控除額を超える場合、10ヶ月以内に相続税の申告が必要です。
このように、全ての相続手続きは正確な財産調査から始まります。
2. 調査の前に…まず「相続人であること」を証明する書類を準備する
金融機関や役所で手続きを行う際、あなたが正当な相続人であることを証明する必要があります。以下の書類は、あらかじめセットで用意しておきましょう。
- 故人の死亡の事実がわかる戸籍謄本(除籍謄本)
- 自分が相続人であることがわかる戸籍謄本
- 自分の本人確認書類(運転免許証など)と実印、印鑑証明書
3. 【自宅でできる】財産調査の第一歩は「故人の遺品整理」から
本格的な調査に入る前に、まずは故人の自宅にある遺品の中から手がかりを探します。宝探しのような作業ですが、これが最も重要なステップです。
探すべき最重要アイテムリスト
- 預貯金通帳、キャッシュカード:取引銀行や支店名が分かります。
- 金融機関からの郵便物:取引報告書、満期のお知らせ、ダイレクトメールなど。ネット銀行や証券会社の利用が判明することも。
- 証券会社の取引報告書:株式や投資信託の保有状況が分かります。
- 保険証券、保険会社からのお知らせ:生命保険の契約内容が分かります。
- 不動産の権利証(登記識別情報)、固定資産税の納税通知書:所有不動産の詳細が分かります。
- ローンやクレジットカードの契約書、返済予定表、督促状:借金の存在が分かります。
- 確定申告書の控え:所得や財産状況のヒントになります。
- 貸金庫の契約書や鍵
これらの書類が見つかったら、コピーを取ったりリスト化したりして、情報を整理しておきましょう。
4. 【金融資産の探し方】預貯金・株式・保険を調査する方法
遺品整理で見つかった手がかりをもとに、各機関に問い合わせていきます。
① 預貯金の調査方法
見つかった通帳の金融機関の窓口で、**「残高証明書」と「取引履歴(過去5〜10年分)」**の発行を依頼します。
- 残高証明書:故人が亡くなった日(相続開始日)時点での預金残高を証明します。
- 取引履歴:不審なお金の動きがないか(生前の使い込みなど)を確認できます。また、他の金融機関への送金記録や、公共料金の引き落としから他の契約が見つかることもあります。
② 株式・投資信託の調査方法
証券会社の取引報告書などがあれば、その証券会社に問い合わせて「残高証明書」を発行してもらいます。もし、どの証券会社と取引があったか不明な場合は**「証券保管振替機構(ほふり)」**に情報開示請求を行うことで、故人が口座を開設していた証券会社を一覧で確認できます。
③ 生命保険の調査方法
保険証券が見つかれば、保険会社に連絡して契約内容を確認します。どの保険会社と契約していたか不明な場合は**「生命保険契約照会制度」**を利用すれば、生命保険協会に加盟している全社に対して一括で契約の有無を照会できます。
5. 【不動産の探し方】漏れなく見つけるための調査方法
固定資産税の納税通知書は大きな手がかりですが、非課税の私道などは記載されていない場合もあり、万全ではありません。
「名寄せ帳」の取得が最も確実
**「名寄せ帳」**とは、ある特定の人が、その市区町村内に所有している不動産を一覧にしたものです。不動産があると思われる市区町村役場の資産税課などで取得できます。これを取得すれば、その自治体内での不動産の所有状況はほぼ全て把握できます。
6. 【最も重要】借金など「マイナスの財産」の探し方
プラスの財産以上に、慎重に調査しなければならないのが借金です。
信用情報機関への情報開示請求
故人が消費者金融やクレジットカード会社から借金をしていた場合、その情報は信用情報機関に登録されています。日本には主に以下の3つの機関があり、相続人としてそれぞれに情報開示を請求することができます。
- CIC(株式会社シー・アイ・シー):主にクレジットカード会社が加盟
- JICC(株式会社日本信用情報機構):主に消費者金融が加盟
- KSC(全国銀行個人信用情報センター):主に銀行や信用金庫が加盟
これにより、故人の借入状況の全体像を把握できます。
7. 他の相続人が協力してくれない…「財産隠し」が疑われる場合の対処法
「長男が親の財産を全部管理していて、何も教えてくれない」といったケースは、残念ながら少なくありません。このような場合、個人での調査には限界があります。
① 弁護士に依頼して調査を進める
まずは弁護士に相談しましょう。弁護士が代理人として他の相続人に財産の開示を求めることで、相手が態度を改めて開示に応じるケースも多くあります。
② 「弁護士会照会制度」を利用する
弁護士は、その所属する弁護士会を通じて、金融機関や官公庁などに対して必要な情報の照会を行うことができます。これは弁護士にのみ認められた強力な権限であり、個人では開示を拒否された情報でも、この制度を使えば開示される可能性があります。
③ 家庭裁判所の「遺産分割調停」を申し立てる
話し合いが全く進まない場合は、家庭裁判所に「遺産分割調停」を申し立てるのが有効です。調停の場では、裁判所から相手方に対して財産を開示するよう勧告されたり、調査を命じられたりすることがあり、財産の解明につながります。
まとめ:焦らず、一つずつ丁寧に。不明な点は専門家へ
相続財産の調査は、まるでジグソーパズルのようです。故人の遺品という小さなピースを集め、一つ一つ組み合わせていくことで、初めて全体像が見えてきます。
まずは自宅の遺品整理から始め、焦らず、一つずつ丁寧に手がかりを辿っていきましょう。そして、少しでも調査に行き詰まったり、他の相続人の対応に不信感を抱いたりした場合は、決して一人で抱え込まず、早い段階で弁護士や司法書士などの専門家に相談してください。
正確な財産調査は、円満な遺産分割と、あなた自身の権利を守るための、最も重要で確実な第一歩です。

