「うちの家族は仲が良いから大丈夫」
「財産なんて、もめるほどないから関係ない」
そう思っていても、いざ相続が始まると、些細なことから家族関係に亀裂が入ってしまうケースは少なくありません。大切な家族が、あなたの死後、お金のことでいがみ合う姿は見たくないですよね。
そんな悲しい「争続」を避けるために、最も有効な対策の一つが**「遺言書」**です。
遺言書は、単に財産の分け方を記す事務的な書類ではありません。**あなたの想いを家族に伝え、円満な相続を実現するための「最後のラブレター」**です。
この記事では、なぜ遺言書が重要なのか、そして「争続」の火種を作らないための遺言書作成における具体的な注意点を、分かりやすく解説していきます。ご自身のエンディングノート作りの一環として、また、ご両親にそれとなく勧める際の知識として、ぜひ最後までお読みください。
目次
- そもそも遺言書がないと、どうなる?
- 遺言書の種類と特徴|あなたに合うのはどれ?
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
- 「争続」を防ぐ!遺言書作成7つの重要注意点
- 注意点1:法的に有効な形式で作成する
- 注意点2:すべての財産を明確にリストアップする
- 注意点3:相続人の「遺留分」に配慮する
- 注意点4:「誰に」「何を」相続させるか具体的に指定する
- 注意点5:手続きをスムーズにする「遺言執行者」を指定する
- 注意点6:なぜこの分け方にしたのか?「付言事項」で想いを伝える
- 注意点7:定期的に見直し、保管場所を明確にする
- 迷ったら専門家へ相談という選択肢
- まとめ:元気なうちに始める「想い」を伝える準備
1. そもそも遺言書がないと、どうなる?
遺言書がない場合、民法で定められた相続人(法定相続人)が、民法で定められた割合(法定相続分)に基づいて遺産を分けるのが原則です。しかし、実際には「誰がどの財産を貰うのか」を相続人全員で話し合って決める**「遺産分割協議」**が必要になります。
この協議が、問題の始まりになることが多いのです。
- 「長男の私が家を継ぐべきだ」
- 「介護を頑張った私(長女)が多く貰う権利があるはず」
- 「親から生前に援助してもらっていたじゃないか(特別受益)」
- 「不動産はいらないから、その分現金で欲しい」
など、それぞれの立場や感情がぶつかり合い、協議がまとまらないケースは後を絶ちません。協議がこじれると、家庭裁判所での調停や審判に発展し、時間も費用も、そして何より家族間の大切な絆も失われてしまいます。
遺言書があれば、この遺産分割協議を原則として行う必要がなく、あなたの意思に基づいたスムーズな相続が可能になります。
2. 遺言書の種類と特徴|あなたに合うのはどれ?
遺言書にはいくつかの種類がありますが、主に利用されるのは「自筆証書遺言」と「公正証書遺言」です。それぞれのメリット・デメリットを理解し、ご自身に合った方法を選びましょう。
自筆証書遺言
【メリット】
- 手軽で費用がかからない:紙とペン、印鑑があれば、いつでも一人で作成できます。
- 内容を秘密にできる:誰にも知られずに作成・保管が可能です。
【デメリット】
- 要件が厳しく無効になりやすい:法律で定められた形式(全文自書、日付、氏名、押印)を一つでも欠くと無効になります。
- 紛失・偽造・隠匿のリスク:保管場所によっては、見つけてもらえなかったり、誰かに書き換えられたりする恐れがあります。
- 家庭裁判所の「検認」が必要:相続開始後、家庭裁判所で遺言書を開封し、内容を確認する「検認」という手続きが必要です。これには時間と手間がかかります。
《法改正のポイント》
2020年7月から**「自筆証書遺言書保管制度」が始まりました。法務局で遺言書を預かってもらえる制度で、紛失や改ざんのリスクがなくなり、面倒な検認も不要**になります。自筆証書遺言のデメリットを大きくカバーできるため、利用を検討する価値は非常に高いでしょう。
公正証書遺言
【メリット】
- 確実性が極めて高い:公証人が内容を確認しながら作成するため、形式不備で無効になる心配がほぼありません。
- 検認が不要:相続開始後、すぐに相続手続きに入れます。
- 原本が公証役場に保管される:紛失や偽造の心配がありません。
【デメリット】
- 費用と手間がかかる:財産額に応じた手数料がかかります。また、公証役場に出向く必要があります。
- 証人が2人必要:作成時に証人2人の立会いが必要です(公証役場で紹介してもらうことも可能)。そのため、遺言の内容が証人に知られることになります。
どちらを選ぶべき?
手軽さを重視するなら自筆証書遺言(保管制度利用推奨)、確実性と相続人の手間を最大限に減らしたいなら公正証書遺言がおすすめです。
(※内容を秘密にしたまま存在を公証できる「秘密証書遺言」もありますが、手続きの煩雑さから利用されるケースは稀です。)
3. 「争続」を防ぐ!遺言書作成7つの重要注意点
さて、ここからが本題です。せっかく遺言書を作成しても、内容が不十分だと新たな争いの火種になりかねません。以下の7つのポイントをしっかり押さえましょう。
注意点1:法的に有効な形式で作成する
基本中の基本ですが、最も重要なポイントです。特に自筆証書遺言の場合は、以下の要件を必ず守ってください。
- 全文を自筆で書く(※法改正により財産目録はPC作成可)
- 日付(年月日)を正確に自筆で書く(「令和〇年〇月吉日」はNG)
- 氏名を自筆で書く
- 押印する(認印でも可ですが、実印が望ましい)
一つでも欠ければ、その遺言書は無効です。あなたの想いが水の泡とならないよう、細心の注意を払いましょう。
注意点2:すべての財産を明確にリストアップする
「預貯金は妻に」だけでは、どの銀行のどの口座か特定できず、手続きが煩雑になります。
- 預貯金:銀行名、支店名、預金種別、口座番号
- 不動産:所在、地番、家屋番号など、登記事項証明書(登記簿謄本)の通りに正確に記載
- 有価証券:証券会社名、支店名、口座番号、株式の銘柄と株数
- その他:自動車、ゴルフ会員権、貸付金など
遺言書に記載のない財産が見つかった場合、その財産については別途、遺産分割協議が必要になってしまいます。抜け漏れがないように、財産目録をしっかりと作成しましょう。
注意点3:相続人の「遺留分」に配慮する
遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に保障された、最低限の遺産の取り分のことです。例えば、「愛人に全財産を譲る」という遺言も法的には有効ですが、妻や子は自身の遺留分を侵害されたとして、愛人に対してその分のお金を請求(遺留分侵害額請求)できます。
これが、争いの大きな原因となります。
特定の相続人に多くの財産を渡したい場合でも、他の相続人の遺留分をなるべく侵害しないような配分を考えることが、円満相続のコツです。どうしても遺留分を侵害してしまう場合は、次の「付言事項」でその理由を丁寧に説明することが不可欠です。
注意点4:「誰に」「何を」相続させるか具体的に指定する
「長男と次男に不動産を半分ずつ」といった分け方は、共有名義となり、将来の売却や建て替えの際に意見が対立するリスクを抱えます。
「自宅の土地建物は長男に」
「〇〇にあるアパートは次男に」
「預貯金は妻に」
というように、「誰に」「どの財産を」相続させるのか、具体的に指定することで、相続人が迷うことなく、争いの余地をなくすことができます。
注意点5:手続きをスムーズにする「遺言執行者」を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために、預貯金の解約や不動産の名義変更などの手続きを行う人のことです。
遺言執行者を指定しておくと、相続手続きが非常にスムーズに進みます。指定がない場合、相続人全員の協力が必要となり、一人でも非協力的な人がいると手続きが滞ってしまいます。
信頼できる相続人の一人や、司法書士・弁護士などの専門家を指定しておくと安心です。
注意点6:なぜこの分け方にしたのか?「付言事項」で想いを伝える
付言事項とは、法的な効力はありませんが、遺言者の想いを自由に記すことができる部分です。これが、円満相続の鍵を握ると言っても過言ではありません。
- なぜ、このような財産の分け方にしたのかの理由
- 家族への感謝の気持ち
- これからの人生への応援メッセージ
- 葬儀やお墓についての希望
などを、あなたの言葉で綴ってください。
例えば、長男に家を多く残す場合、「これまで同居し、生活を支えてくれた妻(長男の嫁)への感謝も込めて、自宅は長男に相続させます。他の皆もどうか理解してください」といった一文があるだけで、他の相続人の納得感は大きく変わります。
注意点7:定期的に見直し、保管場所を明確にする
一度書いたら終わり、ではありません。家族構成の変化(孫が生まれるなど)、財産の変動、人間関係の変化など、状況は変わっていきます。少なくとも3〜5年に一度は内容を見直すことをお勧めします。
また、せっかく書いた遺言書も、見つけてもらえなければ意味がありません。保管場所は、信頼できる家族に伝えておく、貸金庫に保管する、公正証書遺言にする、自筆証書遺言の保管制度を利用するなど、確実に発見される工夫をしましょう。
4. 迷ったら専門家へ相談という選択肢
ここまで読んで、「自分一人で完璧な遺言書を作るのは難しそうだ」と感じた方もいるかもしれません。その場合は、無理せず専門家に相談しましょう。
- 弁護士:法律のプロフェッショナル。特に相続人間で揉める可能性が高い場合に心強い存在です。
- 司法書士:不動産登記の専門家。不動産が多い場合の相続に強いです。
- 行政書士:書類作成の専門家。遺言書の作成サポートや相談に対応してくれます。
専門家に依頼すれば、法的に有効であることはもちろん、あなたの状況に合わせた最適な分割方法や、遺留分対策など、客観的なアドバイスをもらえます。費用はかかりますが、将来の争いを防ぐための「保険」と考えれば、決して高くはないはずです。
まとめ:元気なうちに始める「想い」を伝える準備
遺言書の作成は、決して「死」を意識したネガティブな行為ではありません。むしろ、あなたがこれまで築き上げてきたものを、最も良い形で次の世代に引き継ぎ、残された家族がこれからも仲良く暮らしていけるように願う、ポジティブで愛情あふれる行為です。
「いつかやろう」と思っていると、きっかけを失いがちです。判断能力がはっきりしている元気なうちに、まずはご自身の財産をリストアップすることから始めてみてはいかがでしょうか。
あなたの少しの行動が、愛する家族を未来の「争続」から守る、何よりの贈り物になるはずです。

